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2020年8月17日月曜日

LOUQE Ghost S1 Mk3ケースで小型Ryzenゲーミングマシンを組んでみた

TL;DR

  • LOUQE Ghost S1 Mk3ケースで小型 (9.6L) のゲーミングマシンを組みました
  • 内部の電源ケーブルを自作しましたが、高効率電源用のカスタムケーブルは自作が大変です
  • ケースはtaobaoで購入しましたが、taobaoを利用するには覚悟が必要です

SFF PCの世界

皆さんはPCのケースを購入する際に、何を基準にして選ばれているでしょうか?

入れようとしているマザーボードの大きさに対応しているか確認したり、ケースファンがいくつ付けられるとか、5インチベイは必要かどうか、HDD/SSDを搭載するから3.5インチベイや2.5インチベイが何個必要か、などといったことを確認すると思います。もしくは、本格水冷するならリザーバタンクが配置できるかとか、サイドパネルが強化ガラスになっていて中身のRGBライトが見えるか、なんてことが重要になってくるかもしれません。

世の中にはPCケースが小型であることに強い魅力を見出し、拡張性や冷却性能を犠牲にしてもなお、より小さいPCを組もうと探求するスモールフォームファクター (SFF) というジャンルの自作PCがあります。このSFFのコミュニティ (Reddit, SFF.Network) ではPCケースを選ぶ際に、ケースの容積 (リットル) を重要な基準とみなし、ハイスペックなCPU/GPUをなるべく小さな容積のケースに押し込めることが良いことであるとされています。

自分も2014年にVRデモ用に持ち運べるデスクトップPCを作って以降、小型PCの魅力に取りつかれており、第3世代 Ryzen が登場してからデスクトップPC更新の機会をうかがっていました。そしてついに様々な要因から「今しかない」という直感を感じたので、給付金を片手に満を持してPCの更新に手を付けた次第です。

これから発売される、もしくは過去に販売されたSFFケースの大部分は、SFF.Networkのこのスプレッドシートに網羅されています。

今回自分が購入するに当たって、以下の条件を満たす

  • 2スロットフルサイズのグラフィクスカードが入る
  • 電源はSFXサイズに対応している

ものを検討しました。有名どころをいくつかピックアップして紹介すると…

DAN Cases A4-SFX (公式ページ)

DAN Case A4-SFX v4 - PCケース&パーツ、オーディオのパイオニア ...

2016年にKickstarterで登場して以降、昨今のSFFブームを牽引し続ける最も有名なケースです。7.2Lの筐体に295mmまでの2スロット幅グラフィクスカードを搭載することが可能となっています。ライザーケーブルを使ってマザーボードとグラフィクスカードを背中合わせに配置する「サンドイッチ」構造を導入したケースで、発売以降非常に強い人気を誇っており、このケースの構造を真似た多くのケースが登場しました。

2020年1月にはv4.1が登場し、PCIe Gen4やフロントI/OのUSB3.2 Gen2に対応しました。日本ではDIRACが代理店となっており、各社通販サイトから購入することが可能です。

LOUQE Ghost S1 (公式ページ)

A4-SFXの流れをくむケースで、8.2Lサイズです。A4-SFXの弱点だったCPU冷却性能を改善するためにケースの幅を広げ、CPUクーラーの最大高さを 47mm から 66mm まで大きくしています。また、ケースの上部にTopHatと呼ばれる別売りの拡張パーツをつけることによって、ストレージを増強したり、上部に25mmファンを追加してエアフローを改善したり、水冷ラジエーターを搭載したりして冷却能力を高めることが可能になっています。TopHatをつけた場合のサイズは、M TopHatが9.6L、L TopHatが11.0Lになります。

2020年7月に登場したMk3ではPCIe Gen4に対応しましたが、日本には代理店がなく、購入するにはtaobao等を利用する必要があります。

FormD T1 (公式ページ)

T1 V1.1

基本構造がA4-SFXやGhost S1と同じ9.5Lケースですが、Ghost S1とは異なるアプローチで拡張性を高めています。Top Hatを追加することで拡張性を持たせたGhost S1に対してFormD T1ではケースの大きさは固定 (Ghost S1 + M TopHat相当) ですが、CPU/GPUコンパートメントの仕切りを動かすことができ、70mm CPUクーラー + 2スロットGPU、もしくは 50mm CPUクーラー + 3スロットGPUに組み替えることが可能になっています。

現在公式サイトから第2バッチのPreorderを受け付けており、10月から出荷が開始されるようです。

VELKASE Velka7 (公式ページ)

vk7 side.jpg

このケースは筐体体積を極限まで小さくするために縦置き配置とし、マザーボードとグラフィクスカードを90度方向を変えて配置することで、現行製品で最小の筐体体積 5.9L を実現しています。

ただし、このケース (revision 2.0) はまだ発売されておらず、出荷時期も未定になっています。


各ケースのサイズを模式的に箱で比較すると、このような形になります(右から順にSodaCan、A4-SFX、Ghost S1、T1、Velka7、SG05)。参考までに、2014年にゲーミングPCを組んだ時に使用した小型ケース Silverstone SG05 (公式ページ) も並べてみました。SG05も十分小型 (10.8L) なのですが、サンドイッチ型ではないのでケース内にデッドスペースができてしまい、254mmまでのグラフィクスカードしか搭載することができません。


上の候補から、現時点で入手可能なA4-SFXとGhost S1で迷ったのですが、拡張性の高さとCPU冷却性能に余裕がある点が良いと思ったので、LOUQE Ghost S1を選びました。

ほかに入手性が良い似たようなケースだと、

あたりがあると思いますが、外見が好みではなかったので選択肢から除外しています。



パーツ構成

CPUは今勢いに乗っているAMDのRyzen 7です。チップセットはPCIe Gen4に対応するミドルレンジのB550、メモリはRyzenの定格に合わせて3200MHz、小型ケースに収めるためにストレージはm.2のみとしました。強いグラフィクスカードを搭載するため、電源には余裕をもってCorsair SF750を選択しました。


種類品名値段備考
CPUAMD Ryzen7 3700X38,888円TDP 65W
マザーボードGIGABYTE B550I AORUS PRO AX21,450円PCIe Gen4 / WiFi 6
メモリCFD Gaming CX1 DDR4-3200 16GB x215,279円XMPでOCが必要
ストレージCFD M.2 2280 NVMe 1TB23,980円PCIe Gen4
電源Corsair SF750 Platinum21,647円
ケースLOUQE Ghost S1 Mk3 + M Tophat37,082円taobaoで購入
CPUクーラーNoctua NH-L12 Ghost Edition6,929円eBayで購入
ケースファン x2Noctua A12x25 x28,096円
合計173,351円


今回GPUは購入していないので、このリストには含まれていません。今初めて合計を計算して自分でもびっくりしたんですけど、10万円を軽くオーバーしてますね… 当初は給付金の範囲内でPCを更新する予定だったのですが…

Ryzen 7 3700Xは定格だとメモリ周波数が3200MHzまでに対応しているので、それに合わせてDDR4-3200を購入しました。ただし購入したCFD Gaming CX1は定格電圧1.2Vでは2666MHzでしか動作しないので、1.35V 3200MHzで動作させるためにはBIOSからXMPを有効にしてオーバークロックする必要があるので注意してください。

マザーボードはB550のmini-ITXマザーボードの中から、CPUクーラーと干渉しにくそうなもの(後述)を選びました。B550マザーボードであれば、PCIe Gen4のm.2スロットがついているので、対応するSSDを取り付ければシーケンシャルリード5GB/sの爆速ストレージが手に入ります。

電源にはCorsairの750Wのものを選択しましたが、この構成だと600Wでも十分だったかもしれません。実際、TDP250WのNVIDIA Titan RTX (TDP280W) を取り付けて3DMark TimeSpyを実行した場合でも、システム全体の消費電力はワットメーター読みで390W程度なのでかなり余裕があります。

小型ケースでハイエンドCPUを使用する場合に最も重要になるのが、CPUクーラーの選択です。Ryzen7 3700XにはWraith Prismという高品質な(しかも光る)CPUクーラーが付属しているのですが、残念ながらGhost S1には大きすぎて入れることができません。一般的に小型ケースのベンダーはケースに適したCPUクーラーのリストを提供していますが、DAN Caseは既製品のCPUクーラーに飽き足らず、A4-SFX専用に設計された Alpenfohn BlackridgeというCPUクーラーを販売しています。LOUQE Ghost S1に適合するCPUクーラーとしてはNoctua NH-L12が最も良いとされていたのですが、既に販売が終了してしまっており、Ghost S1オーナーの間では後継のNH-L12Sのヒートパイプを無理やりまげる方法などが確立されていました。ところが、2020年7月にLOUQEがNoctuaとタイアップし、NH-L12を再設計したNH-12 Ghost S1 Editionを発売し、Ghost S1にも公式専用CPUクーラーが誕生しました。

小型ケースで空冷を選択する場合にはエアフローを稼いで効率的にコンポーネントを冷却する必要があるので、ケースファンは値段は高価だが性能が高いことに定評のあるNoctuaの定番モデルを購入しました。実際、OptimumTechの比較動画ではNoctua A12x25が他を圧倒しています。



組み立て

組み立てにあたって重要なのが、CPUクーラーとマザーボードの干渉です。特に最近のハイエンドマザーボードはVRMに一体型の大型ヒートシンクがついているものが多く、mini-ITXのマザーボードではCPUクーラーのマウントと干渉する可能性があります。今回使用したNoctua NH-L12 Ghost S1 Editionではマウントの形状が改良されていて、各種マザーボードに取り付けられますが、NH-L12 無印版 だとASUS X570I等のヒートシンクにマウンタが干渉するようです。

今回のNH-L12 Ghost S1 EditionとGIGABYTE B550Iの組み合わせでも、クリアランスはギリギリでした…

また、今回の組み立てにあたって少し凝ったことをしてみようと思い、内部のATX電源ケーブルを自作してみました。蛍光グリーンとブラックのPETスリーブケーブルで、今回のパーツ構成に合わせてピッタリの長さになるようにしています。


カスタムケーブルの自作自体は (作業は非常に面倒ですが) それほど難しくなく、自分の手で行うことが可能です。基本的にはPSUのピン配置対応図 (Corsairの場合はこのページがわかりやすかったです) を確認しながら、長さを合わせて線を切って、コネクタを圧着して差し込むのを繰り返します (OptimumTechのこの動画がわかりやすかったです)

PETを使った場合に面白いのが末端の処理で、動画にあるように端子を圧着した後に熱収縮チューブを被せて、少し長めに熱を加えます。すると、PETスリーブが熱収縮チューブに圧縮された状態で溶けて固まり、熱収縮チューブをはぎ取った際に綺麗にまとまります。

ただし、カスタムケーブルを自作するうえで一つ注意しなければならないのが、高効率電源 (Corsairの場合PlatinumのSF450/600/750) 用の24pinケーブルには sense wire と呼ばれるものが取り付けられており、高効率電源はマザーボードコネクタ側の電圧をそれで計測しています。つまり、24pinケーブルを作成する際にNCを除いた23本を結線するだけではだめで、+4本追加で線をつなぐ必要があります

Corsairの電源の場合hardforumのスレッドによるとsense wireはこの画像の4本で、この4本には電流がほとんど流れず、マザーボード端の電圧を計測するためだけに使われます。この4本の線はPlatinum未満のGoldクラスの電源では使用されないので、カスタムケーブル作成サイトや、自作紹介動画でも省略されることが多いのですが、CorsairのPlatinum電源の動作には必須なので、注意が必要です。

今回はRedditのスレッドを参考に、スリーブの中にDouble Wireの4本については給電用のAWG16とセンシング用のAWG24の2本の線を通し、AWG24を途中でスリーブから分岐して出してPSU側のコネクタに刺しました。

実際にケーブルを作ってみた感想としては本当に大変だったので、自分でやるのは (特にPlatinum電源を使用している場合は) オススメできないです… もしカスタムケーブルが欲しいのであれば、このページのようなGhost S1向けのカスタムケーブルを作成しているサイトから購入したほうが良いかもしれません… ※その際にはsense wireが必要かどうかのオプションを正しく選択してください



パフォーマンスと冷却性能

メモリをXMPで3200MHzにオーバークロックした以外はデフォルトで、NVIDIA TITAN RTX (TDP 280W)を取り付けた状態で計測を行いました。


CrystalDiskMarkで計測したSSDのベンチマークでは、PCIe Gen3の3.5GB/sの限界を超えており、PCIe Gen4が活かされているような気がします。※ベンチマーク以外ではほとんど違いを体感することはできませんが…


3DMark TimeSpyで計測したCPU/GPUのベンチマークスコアはそれぞれ、10139/14660でした。また、この時にHWiNFOで計測した最大消費電力は、CPUのパッケージが84.1W、GPUが284W、ワットモニターで計測したシステム全体の消費電力が390Wでした。


CPUのTDPは65Wなのにどうしてパッケージ消費電力が84.1Wになっているのか気になる方もいらっしゃるかと思いますが、これはRyzenの自動オーバークロック機能によるもので、Ryzenはデフォルトの設定で、冷却能力に余裕がある場合には消費電力を設定値 (PPT; 3700Xのデフォルト値は88W) までコアの動作周波数を上げようとします。

また、NVIDIAのGPUもブーストクロックという設定を持っており、設定したサーマルスロットリング (デフォルトでは84度)に到達していない場合は定格クロックから自動でブーストクロックまで動作周波数を上げようとします。ただ、Founder’s Editionのデフォルトの設定ではファンの騒音を抑えるためか、サーマルスロットリングに到達してもファンの回転数は100%にならない設定になっています。

3DMark TimeSpyのストレステストをかけてCPU/GPUの温度上昇を見てみると、デフォルトの設定ではGPU温度が87度まで上がっていますが、この状態でもGPUのファンは100%になっていません (上のグラフ)。そこで、MSI Afterburnerを使ってファンの回転数カーブを調整し、温度が80度を超えた時点で100%になるように設定したのが下のグラフになっています。



下のグラフでは2つのケースファン、GPUファンは100%で回転していますが、GPU温度は82度に到達しています。また、この時点では設定された最大ブーストクロック (1770MHz)には到達しておらず、1750MHzを超えたあたりでサーマルスロットリングされていました。現状の空冷構成では、TITAN RTXでブーストクロックを維持するのは難しいようです。



おまけ:taobao店舗からのLOUQE Ghost S1 Mk3購入

今回、LOUQE Ghost S1 Mk3はTwitter公式アカウントがツイートしていたtaobao公式店舗のうち、NOEDIY から直接購入して、転送ネコを使って国内に転送してもらいました。

昔はtaobaoの利用には中国国内の銀行口座が必要だったようですが、現在は支付宝 (Alipay) のアカウントとクレジットカードがあれば購入可能なようです。注意点としては、Alipayには観光客用のTourPassという機能があってお金をチャージして支払いに利用できるものがあるのですが、それは利用せずに、taobao支払い時に直接クレジットカードで支払います。

購入はすべてアプリ内から行う必要があり、SMS認証でtaobaoアプリのアカウントを作成したら、ストアに在庫や納期を問い合わせ、問題なさそうなら購入します。当然、アプリはすべて中国なので自分は全く読めないのですが、


アプリのスクリーンショットを撮影して、Google翻訳アプリからカメラ入力 > スクリーンショットを読み込みでなぞったところを翻訳してるので、一応表示されている内容を理解することは可能です。


taobaoで商品を購入するにあたって最も重要なのが、taobao店舗ページに書いてあることの半分は嘘で、もう半分は誇張である (特にクラウン未満の店舗場合) ということを理解することです。自分もこれを全く理解しておらずにひどい目にあったのですが、商品ページに書いてある在庫数は全て嘘 (10,000を超えていても在庫なしの可能性あり) で、記載してある納期も信用してはいけません。

これまで中国の Banggood や AliExpress といったECサイトや米国の eBay 等のオークションサイトでも買い物をしてきましたが、taobaoはそれらとは比較にならないほど圧倒的に無法地帯で、支払いをしてから急に連絡が取れなくなることもあります (※ありました)。

クラウン以上の信頼できる店舗をちゃんと選んで、購入しようとしている商品の出荷実績があるかを確認して、購入前にチャットで店舗に在庫と納期を問い合わせて、問い合わせのレスポンスが早くて信頼できそうだったらやっと購入に踏み切るぐらいがちょうどよいのかもしれません。幸いNOEDIYは英語にも問い合わせにも対応しているので、英語でチャットが可能です。また応答も非常に早く、注文した当日に発送してくれて、翌日には転送倉庫に到着しました。


taobaoにはGhost S1のクローンも多数出品されており、Redditで観測していると実際に届くものもあるようですが、コピー品は受注生産の場合も多く納期もあてにならないことが多いのでやめたほうが良いです。また、正規品を購入するにしても、他に手段があるならtaobaoから購入するべきではないと思います。

自分ははじめ、Ghost S1のクローン品を別の店舗から、taobao代行サービス (タオバオ新幹線) を使って購入しようとしたのですが、この代行サービスもまた曲者でした… てっきり代行サービスに任せておけば店舗との交渉をやってくれると思っていたのですが、その考えは甘かったようです… というのも、代行サービス業者自体が中国の商習慣 :thinking_face: で働いており、3日おきに確認しないと何もしませんし、問い合わせは50%の確率で無視され、約束した期限までに何かをしてくれたことは一度もありませんでした。結局、6/13 に買い付け依頼をしてから 8/3 の全額返金までを通して、得られたのは大きなストレスだけでした。

なので、もしどうしても必要になってtaobaoから何かを購入される場合には、信頼できる店舗を見つけて、直接交渉してみることをお勧めします…

2 件のコメント:

  1. 初めまして^ ^
    S1 ケースかっこいいですよね。
    こちらのケースが欲しいです、代行で購入 していただく事は可能でしょうか?
    min itx が好きで自作歴1年程度ですがこのけーすが夢です。
    よろしくお願いいたします。

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  2. 初めまして^ ^
    S1 ケースかっこいいですよね。
    こちらのケースが欲しいです、代行で購入 していただく事は可能でしょうか?
    min itx が好きで自作歴1年程度ですがこのけーすが夢です。
    よろしくお願いいたします。

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